デジタルルール作り、始める前に親が大切にしたい「向き合う姿勢」と心の準備
思春期のお子様のデジタル利用について、漠然とした不安や心配を抱えていらっしゃる方は多いかと思います。どうやってルールを決めたらいいのだろう、子どもが反発したらどうしよう、関係が悪くなるのは避けたい、といったお悩みをお聞きすることもあります。
デジタルルールの策定は、家庭ごとに異なる状況や価値観に合わせて行う必要があり、決して簡単なことではありません。特に思春期のお子様との話し合いは、難しさを感じる場面もあるでしょう。しかし、頭ごなしに制限するのではなく、お子様との関係を大切にしながら、無理なく続けられるルールを作ることは十分に可能です。
そのためには、ルールの内容を決める前に、親御さんご自身の「心の準備」と、お子様との「向き合う姿勢」を整えることが非常に重要になります。この記事では、デジタルルール作りを始める前に親が大切にしたい心構えと、お子様との関わり方についてご紹介します。この記事を読むことで、デジタルルール作りへの心理的なハードルが下がり、より建設的な話し合いのきっかけが得られるでしょう。
なぜルール作りの前に「親の準備」が必要なのか
デジタルルールの必要性を感じたとき、つい「何時間まで」「何時まで」といった具体的な制限を考えがちです。もちろんそれも重要ですが、なぜそのルールが必要なのか、どのような目的でルールを作るのかといった背景を親子で共有できていないと、お子様にとっては単なる一方的な「禁止事項」に聞こえてしまい、反発を生む可能性が高まります。
思春期のお子様は、自立心が芽生え、自分の考えを大切にする時期です。親から一方的に押し付けられると感じると、たとえそれがお子様のためであっても、素直に聞き入れられないことがあります。親御さんがお子様のデジタル利用に対して強い不安や否定的な感情だけを持っていると、話し合いの場でもそれが伝わり、お子様は心を閉ざしてしまうかもしれません。
デジタルルール作りは、単に利用時間を制限するためのものではなく、お子様がデジタルを安全に、そして主体的に活用していくための力を育む機会でもあります。そのためには、親御さん自身が冷静に、お子様の現状やデジタルが持つ多様な側面を理解しようと努め、完璧なルールではなく、家族みんなが納得できる「より良い形」を目指すという姿勢が大切になります。この「親の心の準備」こそが、ルール作りの成功の鍵を握ると言えるでしょう。
デジタルルール作りの前に整えたい「心の準備」
では、具体的にどのような心の準備をすれば良いのでしょうか。いくつかポイントをご紹介します。
1. 親自身のデジタルリテラシーを知る（知らないことを認める勇気）
お子様が夢中になっているゲームやSNSについて、「よく分からない」「危険なのでは」といった漠然としたイメージだけを持っていませんか。全てを理解する必要はありませんが、お子様がどのような世界に触れているのか、少し関心を持ち、可能であれば少し情報を集めてみることも有効です。同時に、ご自身のデジタルに関する知識レベルを知り、「分からないことは子どもに聞く」という姿勢を持つことも、お子様にとっては受け入れやすい場合があります。「親なのに知らないの？」と思われるかもしれませんが、知らないことを正直に伝え、一緒に学ぶ姿勢を見せることは、お子様との信頼関係を築く上でも役立ちます。
2. 子供のデジタル利用を「悪いもの」と決めつけない
オンラインの世界にはリスクがある一方で、友人との大切なコミュニケーションの場であったり、趣味や学習のツールであったりと、お子様にとって有益な側面も多くあります。デジタル利用の全てを「悪いもの」「危険なもの」と決めつけてしまうのではなく、どのような良い面があるのか、お子様はそこから何を学んでいるのか、といった多様な側面に目を向ける努力をしましょう。この客観的な視点が、お子様との話し合いにおいて冷静さを保つ助けとなります。
3. 過去の失敗や他の家庭と比較しない
過去にルール作りでうまくいかなかった経験や、他の家庭の完璧に見えるルールと比較して、自分たちには無理だと諦めないでください。家庭の状況や子どもとの関係性はそれぞれ異なります。他の家庭の事例は参考にはなりますが、そのまま真似をしても成功するとは限りません。「わが家らしい」ルールを、お子様と一緒に探していくという意識を持ちましょう。失敗から学び、少しずつ調整していくプロセスも大切です。
4. 完璧なルールは存在しないと理解する（見直し前提でOK）
最初のルール作りで全てを網羅し、将来にわたって完璧なルールを作ることは不可能です。お子様の成長と共に、デジタルサービスも変化していきます。一度決めたルールも、状況に合わせて見直していく必要があります。最初から完璧を目指さず、「まずはできるところから始めてみよう」「これはあくまで現時点での約束事」というくらいの気持ちで取り組むことで、肩の力が抜け、より柔軟な対応が可能になります。
5. 自分の不安の源を探る（漠然とした不安を具体的にする）
なぜ、お子様のデジタル利用に不安を感じるのでしょうか？ゲームのやりすぎによる健康への影響なのか、SNSでの人間関係のトラブルなのか、オンラインでの犯罪への巻き込みなのか、漠然とした不安を具体的にすることで、本当に話し合うべき論点が明確になります。不安を具体的に言語化することで、お子様にも落ち着いて伝えやすくなります。
子供と「向き合う姿勢」を考える
心の準備と合わせて、お子様との向き合い方も見直してみましょう。
1. 子供の意見を「聞く」ことから始める
ルール作りは、親が一方的に指示する場ではなく、親子で一緒に考え、作り上げる共同作業です。まずはお子様がデジタルをどのように使っているのか、なぜそれが必要だと感じているのかをじっくり聞く時間を取りましょう。頭ごなしに否定せず、「そうなんだね」「そういう風に考えているんだね」と、お子様の気持ちや考えを受け止める姿勢が大切です。
2. なぜデジタルを使いたいのか、子供の「思い」を理解しようと努める
お子様がデジタルに費やす時間は、親には理解できないかもしれませんが、お子様にとっては重要な意味を持っている場合があります。友達とのつながり、学校での話題についていくため、好きなことの追求、ストレス発散など、その理由は様々です。お子様がなぜデジタルを使いたいのか、その「思い」を理解しようと努めることで、話し合いの糸口が見つかることがあります。
3. 一方的な「指導」ではなく、「対話」のスタンスを大切にする
「〜しなさい」「〜はダメ」といった一方的な指導ではなく、「どうすれば安全に使えるかな」「この時間についてどう思う？」といった問いかけを通じて、お子様自身に考えさせる対話のスタンスを大切にしましょう。親も完璧ではないことを認め、「一緒に考えてほしい」と伝えることで、お子様も話し合いに参加しやすくなります。
4. 子供の「自律」を促す視点を持つ
最終的な目標は、お子様が親の管理下ではなく、自分で考えてデジタルを適切に利用できるようになることです。ルール作りは、その自律を促すためのサポートと捉えましょう。「自分で時間を決めてみる？」「もし困ったことがあったらどうする？」など、お子様自身に判断させたり、問題解決の方法を一緒に考えたりする機会を設けることが重要です。
5. 親自身もデジタル利用を見直す姿勢を示す
お子様にデジタル利用のルールやマナーを求める一方で、親御さん自身の利用状況はどうでしょうか。食事中にスマートフォンを見ていたり、お子様との会話中に通知を気にしたりしていませんか。親の行動は、お子様にとって何よりも強いメッセージになります。「お父さん・お母さんも、夜〇時以降はスマホをリビングに置くようにしようと思うんだ」といったように、親自身もデジタルとの付き合い方を見直す姿勢を示すことで、お子様もルールを受け入れやすくなります。
具体的な第一歩（準備段階の行動例）
これらの心の準備と向き合う姿勢を整えるための具体的な第一歩として、まずはルールを「決める」ことよりも、以下のような準備段階の行動から始めてみることをお勧めします。
- お子様がよく見ている動画やプレイしているゲームについて、「どんなところが面白いの？」と気軽に聞いてみる。
- 夕食後など、家族みんなでデジタル機器を使わずに話をする時間を意図的に作ってみる。
- お子様の「スマホいじりすぎじゃない？」と感じた時、すぐに注意するのではなく、なぜそう感じたのか、その理由を一度書き出してみる。
これらの小さな行動が、お子様との間に信頼関係を築き、本格的なデジタルルール作りに向けた良い土台となります。
まとめ
思春期のお子様とのデジタルルール作りは、親御さんにとって大きな課題の一つです。しかし、焦って具体的なルールを詰め込むのではなく、まずは親御さんご自身の「心の準備」を整え、お子様との「向き合う姿勢」を見直すことから始めてみましょう。
完璧なルールを目指すのではなく、お子様の声に耳を傾け、共に考え、必要に応じて見直していくプロセスそのものが、お子様のデジタルリテラシーを育み、親子関係をより豊かなものにしていくはずです。不安に感じる気持ちに寄り添いながら、まずは小さく一歩を踏み出してみてください。わが家らしい、無理なく続けられるデジタルルール作りは、そこから始まります。