「どうして守れないの?」より先に。思春期の子どもの気持ちに寄り添うデジタルルール作り
思春期を迎えたお子様とのデジタルルール作りは、多くのご家庭にとって大きな課題の一つではないでしょうか。「せっかく一緒に決めたルールなのに、どうして守ってくれないのだろう」「また時間をオーバーしている」「隠れて使っているみたい」など、お子様のデジタル利用を巡って、不安や疑問、そしてお子様への失望を感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、そこで一方的に「どうして守れないの!」と責めたり、ルール違反を問いただしたりすることは、多くの場合、お子様の反発を招き、親子の関係をかえって難しくしてしまいます。思春期の子どもがデジタルルールを守れない背景には、大人が想像する以上に複雑な気持ちや理由が隠されていることがあります。
この記事では、思春期の子どもがデジタルルールを守れない背景にある可能性のある理由を理解し、お子様の気持ちに寄り添いながら、無理なく継続できるデジタルルールを再構築していくためのヒントをご紹介します。お子様との対立を避け、納得感を高めながら、共に成長していくための道筋を探りましょう。
なぜ思春期の子どもはデジタルルールを守れないことがあるのか
まず、頭ごなしに責めるのではなく、お子様がルールを守れない背景にはどのような要因があるのか、冷静に考えてみることが大切です。思春期という時期は、心身ともに大きく変化し、親からの自立を目指す大切な時期です。その過程で、以下のような理由から、決めたデジタルルールを守ることが難しくなる場合があります。
- 自己肯定感の確立と承認欲求: SNSなどで「いいね」をもらったり、友達との繋がりを確認したりすることが、自分自身の存在価値を感じる手段の一つになっている場合があります。ルールによってそれが制限されると、強い抵抗を感じることがあります。
- 友達関係の優先: 思春期の子どもにとって、友達との繋がりは何よりも重要な関心事の一つです。友達との連絡やオンラインゲームへの参加がルールによって制限されることは、友達グループから取り残されることへの不安や、孤立感につながると感じることがあります。
- 脳の発達段階: 思春期の脳は、感情や衝動を司る部分が発達する一方で、計画性や自己制御を司る前頭前野がまだ発達途上です。そのため、分かっていても衝動的にデジタルデバイスを使ってしまったり、時間の管理がうまくできなかったりすることがあります。
- 自律への願望と親への反発: 親が決めたルールに従うこと自体が、子どもにとっては「管理されている」「認められていない」と感じられ、自律したいという気持ちから反発につながることがあります。
- ルールへの納得感の不足: 親が一方的に決めたルールや、なぜそのルールが必要なのかを十分に理解・納得できていない場合、守るモチベーションが湧きにくくなります。
- 疲労やストレス: 学校での出来事や友達との関係などで疲れているとき、デジタル利用が唯一の息抜きや現実逃避の手段となっている場合、ルールを守る精神的な余裕がなくなってしまうことがあります。
- ルールの現実性: 設定されたルールが、お子様の学校生活や部活動、友達との関係性などを考慮しておらず、現実的に守るのが難しい内容である可能性も考えられます。
これらの要因は一つだけでなく、複雑に絡み合っていることがほとんどです。「ルールを破った」という行動の裏には、お子様なりの葛藤やSOSが隠されている可能性も否定できません。
「どうして守れないの?」と問う前に、親がまずできること
お子様がルールを守れなかったとき、反射的に問い詰めるのではなく、立ち止まって親自身の対応を振り返ってみることが大切です。
- 感情的にならない: まずは深呼吸をして、冷静さを保つよう努めましょう。「まただ」「なぜ分からないの」といったネガティブな感情のまま話すと、お子様も心を閉ざしてしまいます。
- 一方的に決めつけない: ルール違反の事実だけでなく、その背景にお子様がどのような気持ちを抱えているのか、何があったのかに関心を持つ姿勢を示しましょう。「どうせゲームのやりすぎだろう」などと決めつけず、まずは話を聞く準備をします。
- 責めるのではなく「心配している」と伝える: 「ルールを破ったこと」そのものを厳しく叱責するよりも、「約束の時間になったけど、まだ使っているみたいで心配になったよ」「疲れていないかなと思って声をかけたんだ」など、お子様の健康や安全を気遣う気持ちを伝えることから始めると、お子様も耳を傾けやすくなります。
- 親自身のデジタル習慣を見直す: 親自身が寝る直前までスマートフォンを見ていたり、食事中に頻繁に通知を確認したりしていませんか? 子どもは親の行動をよく見ています。親が見本を示すことも、デジタルルールを家族で守る上で重要な要素です。
- 話し合うタイミングを見極める: ルール違反があった直後は、お子様も感情的になっていたり、罪悪感を感じていたりするかもしれません。少し時間を置き、お互いが落ち着いて話せるタイミングを選ぶことも有効です。
子どもの「気持ち」に寄り添うコミュニケーションの具体例
お子様の気持ちに寄り添いながら、デジタルルールについて話し合うための具体的な声かけや考え方を紹介します。
- 「〜だったんだね」「〜と感じているんだね」と共感を示す:
- 例:「友達から連絡が来て、すぐに返信しないといけない気持ちになったんだね」「このゲームをクリアしないと、友達との話についていけなくなるのが不安なんだね」
- お子様の言葉や状況を否定せず、一度受け止める姿勢を見せることで、お子様は「分かってもらえたかもしれない」と感じ、安心して本音を話しやすくなります。
- 「もしよかったら、今の気持ちを聞かせてくれる?」と問いかける:
- 例:「ルールがあったのに続けちゃったのは、何か理由があったのかな? よかったらどんな気持ちだったか教えてくれる?」
- 一方的に理由を尋問するのではなく、「もしよかったら」と選択肢を与えることで、お子様のプレッシャーを軽減できます。話したくない場合は無理強いせず、「話したくなったら聞くよ」と伝えることも大切です。
- 「〜するのは、あなたにとってどんな意味がある?」と一緒に考える:
- 例:「そのゲームをしている時間は、あなたにとってどんな時間? どんな気持ちになる?」
- お子様がデジタル利用から得ている価値や意味を理解しようとすることで、単なる「やめさせる」という視点から、「お子様にとって何が大切か」を共に考える対話へと発展させることができます。
- 「このルールを守るのが、今難しくなっているのかな?」と柔軟に見直す可能性を示唆する:
- 例:「前に決めた時間だけど、今の状況だと守るのが大変になっているのかな? もしそうなら、一緒に考えてみようか」
- ルールは一度決めたら絶対に変えられないものではありません。お子様の成長や状況の変化に合わせて柔軟に見直していく姿勢を見せることで、お子様はルールを「押し付けられたもの」ではなく、「自分たちで作り上げていくもの」と捉えられるようになります。
子どもが納得できるルールへ見直すプロセス
お子様の気持ちを理解し、寄り添うコミュニケーションができたなら、次はルール自体を見直す段階に進むかもしれません。
- なぜそのルールが必要なのかを再確認する: 親が「なぜ」そのルールを設定したのか、お子様の健康や安全、将来のことなど、具体的な理由を落ち着いて説明します。感情論ではなく、論理的に伝えることが重要です。
- お子様が納得できない点、難しい点を丁寧に聞く: お子様がルールのどの部分に納得できていないのか、守る上でどのような困難を感じているのかを具体的に聞き出します。
- 代替案を一緒に考える: 親だけが解決策を考えるのではなく、「どうすれば、あなたが大切にしたい時間も確保しつつ、家族で決めたルールも守れると思う?」など、お子様自身に考えさせ、一緒に解決策を探る姿勢が大切です。
- 小さなことから改善を試みる: 一度に全てを完璧にしようとせず、まずは一つのルールから見直し、小さな成功体験を積み重ねていくことも有効です。
- 約束したことは「見える化」する: 見直したルールは、紙に書いて貼る、家族で共有できるアプリに入力するなど、いつでも確認できるようにしておくことで、お互いの意識が高まります。
成功事例・失敗事例から学ぶ
他のご家庭の事例を知ることは、自分たちの状況を客観的に見つめ直し、新たなヒントを得る上で役立ちます。
- 成功事例:
- お子様が好きなゲームやSNSについて、親も少し学んで会話に取り入れたことで、壁が低くなり本音を話してくれるようになった。
- 一方的に時間を決めるのではなく、「寝る1時間前には終える」「食事中は使わない」など、具体的な行動や家族の時間を守ることを中心にルールを設定したら、納得して守るようになった。
- ルール違反があったとき、すぐに叱るのではなく「どうしたの?」と声をかけ、話を聞いた上で、「次からはどうしたら守れそう?」と一緒に改善策を考えたら、自分から努力するようになった。
- 失敗事例:
- ルール違反のたびに厳しく罰則を与えた結果、隠れて使うようになり、親子関係が悪化してしまった。
- 子どもの言い分を聞かずに一方的にルール変更を伝えたら、反発して全く聞かなくなった。
- 曖昧なルール(「ほどほどに使う」など)だったため、結局守られず、親子でイライラすることが増えた。
これらの事例から分かるように、お子様の気持ちに寄り添い、共に考え、柔軟に対応する姿勢が、デジタルルール作りを成功させる鍵となります。
まとめ
思春期のお子様がデジタルルールを守れないとき、それは単なる反抗やわがままだけではない、複雑な心の内が隠されている可能性があります。「どうして守れないの?」と問い詰める前に、一度立ち止まり、お子様の気持ちに寄り添うことから始めてみましょう。
お子様がなぜルールを守れないのか、その背景にある思春期特有の悩みや葛藤を理解し、共感的な姿勢で話を聞くこと。そして、一方的に決めつけるのではなく、なぜそのルールが必要なのかを丁寧に伝え、お子様と共に解決策を探るプロセスこそが、無理なく続けられるデジタルルール作りにつながります。
ルールを守らせることだけに固執せず、お子様の成長を信じ、共に考え、支えていく姿勢を持つこと。それが、デジタル利用を巡る不安を乗り越え、お子様の自律を促し、同時に親子の信頼関係をより一層深めていくための大切な一歩となるはずです。焦らず、お子様のペースに寄り添いながら、わが家にとって最善の道を探していきましょう。