思春期の子どもと「今の利用状況」を一緒に知る。記録と共有で始めるデジタルルール作り
はじめに:漠然とした不安から「見える化」への第一歩
お子様のスマートフォンの利用時間や、どんなアプリを使っているのか、気になっていても具体的に把握できていない、あるいはどうやって把握すれば良いか分からないと感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。思春期を迎えたお子様との関係性も変化し、「デジタル利用について話そうとしても、すぐに反発されてしまうのでは」「プライベートに踏み込みすぎるのは避けたい」といった不安から、なかなかルール作りの一歩を踏み出せない、というお悩みもよく伺います。
しかし、家族が納得できる、無理なく続けられるデジタルルールを作るためには、まず「現状を正確に把握する」ことが非常に重要です。そして、その把握は、親御様だけが行うのではなく、ぜひお子様と「一緒に」取り組んでいただきたいプロセスです。
この記事では、思春期のお子様と「今のデジタル利用状況」を感情論ではなく客観的に共有し、理解するための具体的な方法として、「記録」と「共有」のステップをご紹介します。このステップを経ることで、お互いの認識のズレをなくし、一方的なルールではなく、共に考えるための土台を築くことができるでしょう。
なぜ、まず「利用状況の記録・共有」が必要なのか?
ルール作りの前に利用状況を記録し、親子で共有することには、以下のような大切な意味があります。
- 親の漠然とした不安を具体的にする: 「使いすぎではないか」「何を見ているのだろう」といった抽象的な不安は、具体的な時間や内容を把握することで整理され、冷静に話し合うための準備ができます。
- 子ども自身が自分の利用状況を客観的に知る機会となる: 思春期のお子様自身も、自分がどれくらいの時間、何にデジタルを使っているのかを正確に意識していない場合があります。記録を見ることで、客観的な事実として自分自身の利用状況を認識するきっかけになります。
- 感情論ではなく、具体的な事実に基づいて話し合える: 「使いすぎでしょ!」といった感情的な言葉は対立を生みやすいですが、「このアプリに一日平均○時間使っているみたいだね」といった事実から入ることで、建設的な対話を始めやすくなります。
- 家族共通の「現在の状況」という認識を持つ: 親子それぞれが持っているデジタル利用のイメージを一致させることで、その後のルール作りの必要性や方向性について、同じ土台の上で話し合うことができます。
このステップは、決して「監視」のためではなく、お互いの理解を深め、より良いデジタルとの関わり方を共に見つけていくための「準備期間」であると捉えてください。
ステップ1:無理のない方法で「利用状況を記録」してみる
まずは、お子様のデジタル利用状況を把握するための記録を始めます。この時、大切なのは「完璧を目指さないこと」と「お子様にも協力を仰ぐこと」です。最初から厳密な記録を求めすぎると、お子様の反発を招いたり、親御様自身が負担に感じてしまったりする可能性があります。
記録する方法はいくつか考えられます。
- スマートフォンの「スクリーンタイム」機能などを活用する: 多くのスマートフォンには、利用時間やアプリごとの利用状況を自動で記録・集計する機能が標準搭載されています(例:iPhoneのスクリーンタイム、Androidのデジタルウェルビーイング)。これらの機能を使うと、正確なデータを簡単に確認できます。お子様自身の端末で設定を確認してもらうのも良いでしょう。
- 特定の時間帯や曜日だけ、手書きやメモアプリで記録する: 一日の全ての利用を記録するのが難しければ、「寝る前の1時間」「週末だけ」など、範囲を限定して記録してみるのも一つの方法です。簡単なメモや、家族で共有できるメモアプリ(Google Keepなど)を使うのも良いでしょう。
- 利用時間を計測するアプリを試す: 第三者製のアプリの中には、特定のアプリの起動時間を計測したり、利用時間を制限したりする機能を持つものもあります。お子様と相談しながら、使いやすいものを選んでみるのも良いでしょう。
記録する項目も、最初はシンプルで構いません。「いつ(時間帯)」「何を(アプリ名、サービス名)」「どれくらい(時間)」といった基本的な情報から始めてみましょう。もし可能であれば、「どんな目的で(友達と連絡、ゲーム、動画視聴、学習など)」といった項目も加えると、利用の質についても話し合いやすくなります。
記録は、親御様が一方的に行うのではなく、「お互いのために、今のデジタルとの付き合い方を知ることから始めたいんだけど、少し記録してみない?」と、お子様に協力をお願いする形で進めるのが望ましいです。
ステップ2:記録した状況を「親子で共有」し、穏やかに「対話」する
数日または1週間ほど記録を続けてみたら、次はその結果を親子で共有し、それについて話す時間を作ります。この「共有と対話」の時間が、最も重要であり、同時に難しさを伴う部分かもしれません。
- 共有のタイミングと場所を決める: 食事の後や週末の落ち着いた時間など、家族全員がリラックスできるタイミングを選びましょう。リビングなど、オープンな場所で行うのがおすすめです。
- 「報告会」ではなく「発見の共有」という意識で: 記録結果を突きつけるのではなく、「一緒に見てみようか」という姿勢で始めます。「こういうアプリ、よく使ってるんだね」「意外とこの時間に集中して使ってるんだね」といった発見を、親御様からも伝えてみましょう。
- 問い詰めたり、責めたりしない: 記録された時間や内容に対して、「やっぱり使いすぎじゃない!」「こんなもの見てたの!」といった否定的な言葉は避けましょう。お子様はすぐに心を閉ざしてしまう可能性があります。
- 質問形式で「なぜ?」や「どう感じているか」を聞く: 「このアプリはどんな時に一番使う?」「夜遅くまで見てた日があるけど、その時はどんな感じだった?」など、お子様が自分の言葉で話せるような質問を投げかけてみましょう。
- 親御様自身のデジタル利用についても話す: 親御様も、ご自身のスマートフォンの利用時間などを共有してみるのも良いでしょう。「私も結構見ちゃう時間があるな」など、自分自身の状況を話すことで、お子様も話しやすくなります。
- 良かった点や肯定的な側面に目を向ける: 利用時間だけでなく、「このアプリで友達と協力してるんだね、楽しそうだね」「動画でこんなことを学んでるんだ、すごいね」など、デジタルのポジティブな側面や、お子様の頑張りにも目を向け、言葉にしましょう。
- この段階では、すぐに「ルールを決めよう」としない: あくまで「今の状況を知る」ことが目的です。記録や対話を通じて、「もしかしたら、もう少し工夫した方がいい時間もあるかもね」「家族でデジタルとの付き合い方を少し考えてみるのもいいかもね」といった共通認識を、時間をかけてゆっくり育んでいくイメージです。
ステップ3:記録・共有を「無理なく続ける」ための工夫
一度の記録と共有で全てが解決するわけではありません。デジタルとの関わり方は常に変化していくため、定期的にこの「記録・共有→対話」のサイクルを繰り返すことが理想です。
- 「いつ」記録・共有するかを決める: 「月に一度、第一日曜日の午後に確認しよう」「学期末ごとに振り返ろう」など、定期的なタイミングを家族で話し合って決めると、習慣化しやすくなります。
- 形式にとらわれすぎない: きっちりした記録が難しくなっても、家族で「最近どう?」とデジタルについて話す時間を設けるだけでも意味があります。
- 目標を高く設定しすぎない: 全てのデジタル利用を完璧に把握しようとせず、まずは気になる部分だけ、あるいは大まかな利用時間だけでも記録するなど、負担にならない範囲で続けましょう。
- うまくいかなかった時も責め合わない: 記録が途中で止まってしまったり、話し合いがスムーズに進まなかったりしても、「まあ、そういう時もあるよね」と受け流し、「次はこうしてみようか」と前向きに捉えましょう。
まとめ:「知る」ことから始まる、家族のデジタルとの向き合い方
思春期のお子様とのデジタルルール作りは、時に難しさを伴う道のりです。しかし、その第一歩として、お互いのデジタル利用状況を「記録し、共有し、それについて話す」というプロセスは、感情的な対立を避け、冷静で建設的な話し合いの土台を築く上で非常に有効な方法です。
完璧な記録や、一度の対話で全てを解決しようとせず、「まずは知ることから始めよう」「お互いのことを少しずつ理解していこう」という気持ちで取り組んでみてください。この「見える化」のプロセスは、お子様が自分自身のデジタルとの関わり方を振り返る機会となり、将来的に自分でバランスの取れた利用ができるようになるための「自律」の力を育むことにもつながります。
もし、このステップを通じて「もう少し具体的なルールが必要かもしれないね」という話になったら、次の段階として、家族にとって大切な価値観や、具体的なルールの項目について話し合っていくことができるでしょう。無理なく、焦らず、家族にとって最適なデジタルとの付き合い方を見つけていく旅を、この「記録と共有」から始めてみてはいかがでしょうか。