デジタルルール作りの前に。親子で振り返る、今のデジタル利用状況
デジタル利用は、現代の生活に欠かせないものとなりました。お子様の成長を見守る中で、スマートフォンやゲーム機、PCといったデジタルデバイスとの付き合い方について、漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
「使いすぎているのではないか」「どんなサイトを見ているのだろう」「友達とのやり取りは大丈夫か」といった心配は尽きないものです。そして、「そろそろルールを決めなければ」と思っても、思春期のお子様との話し合いは難しく感じたり、どのように切り出せば良いのか迷ったりすることもあるかと存じます。
多くの場合、デジタルルール作りは、まず「何に困っているか」「どうしたいか」といった問題提起から始まります。しかし、実際にルールを効果的で、かつ家庭に無理なく馴染むものとするためには、その前に一つ、非常に大切なステップがあります。それが、「今のデジタル利用状況を親子で一緒に振り返り、共有する」というプロセスです。
このステップを踏むことで、親御様の漠然とした不安が具体的な形になったり、お子様自身の利用状況に対する気づきが生まれたりします。これは、一方的な制限ではなく、親子が同じ認識を持つための重要な土台となり、その後のルール作りをより建設的で、納得感のあるものへと導くことに繋がるのです。
この記事では、デジタルルール作りの最初のステップとして、お子様、特に思春期のお子様と一緒に、現在のデジタル利用状況をどのように把握し、共有していくのか、その具体的な方法と、話し合いの際のポイントについて解説いたします。
なぜルール作りの前に「現状把握」が重要なのか
すぐに具体的なルール項目(例:「ゲームは1日60分まで」「夜9時以降はスマホを使わない」など)を考え始めることもできますが、まずは現状を把握することには、以下のような重要な意味があります。
- 漠然とした不安を具体化する: 「使いすぎ」と感じていても、具体的に「いつ」「何を」「どれくらい」利用しているのかが分からなければ、効果的な対策を立てることは困難です。現状を数値や具体的な行動として捉えることで、親御様自身の不安の原因が明確になります。
- 親子の認識のずれを解消する: 親御様が想像しているお子様のデジタル利用と、実際のお子様の利用には違いがあることが少なくありません。現状を一緒に確認することで、お互いの認識をすり合わせ、誤解に基づく対立を防ぐことができます。
- 現実的で納得感のあるルールを作る土台となる: 現状を把握せずに立てたルールは、お子様にとって非現実的で、守ることが難しいと感じられる場合があります。実際の利用状況に基づいたルールであれば、お子様自身も必要性を感じやすく、納得して受け入れやすくなります。
- お子様自身の気づきを促す: 自分のデジタル利用時間を記録やグラフなどで客観的に見ることで、お子様自身が「意外と長く使っているな」「この時間に集中力が落ちているかもしれない」といった気づきを得る場合があります。これは、自律的な利用に向けた大切な一歩となります。
親子でデジタル利用の現状を振り返るステップ
では、具体的にどのように現状を把握し、共有すれば良いのでしょうか。思春期のお子様との対立を避けつつ進めるためのステップをご紹介します。
ステップ1:親自身がデジタルとの向き合い方を見直す
お子様のデジタル利用について話す前に、まずは親御様ご自身のデジタル利用状況を振り返ってみましょう。「親がいつもスマホを見ているのに、自分ばかり言われる」と感じてしまうお子様もいらっしゃいます。ご自身の利用状況を把握し、必要であれば見直す姿勢を見せることは、お子様に協力を求める上で重要な信頼関係の構築に繋がります。
ステップ2:「なぜ現状を知りたいのか」を丁寧に伝える
お子様に「あなたのスマホの使い方を見せてほしい」と一方的に言うと、監視されていると感じ、反発を招く可能性があります。「なぜ」を知りたいのか、その理由を丁寧に伝えましょう。
例:「最近、あなたが楽しそうにスマホを使っているのを見るけれど、私たち親はデジタルについてあまり詳しくないから、どんな風に使っているのか、どんなことで困ることがあるのか、少し教えてほしいなと思って。これからの家族みんなのデジタルとの付き合い方を考える上で、あなたの今の状況を知ることは、私たちにとってとても大切なんだ。」
ポイントは、「心配だから取り上げたい」「制限したい」という意図ではなく、「知りたい」「理解したい」「一緒に考えたい」というポジティブな意図を伝えることです。
ステップ3:現状把握の方法を検討・実行する
具体的な現状把握の方法はいくつかあります。お子様と相談して、無理なく続けられる方法を選びましょう。
- スマートフォンのスクリーンタイム機能やデジタルウェルビーイング機能: スマートフォンに標準搭載されている機能で、アプリごとの利用時間などを確認できます。グラフなどで視覚的に分かりやすいのが特徴です。
- 専用のアプリ: 利用時間や起動したアプリなどを記録してくれるアプリもあります。
- 手書きやスプレッドシートでの記録: アプリなどの利用に抵抗がある場合や、より詳細な活動内容(ゲーム、SNS、動画視聴、学習など)を記録したい場合に有効です。お子様自身が記録することで、より自覚が芽生えやすくなります。
- 一定期間、普段通りに使ってもらう: 最初から「記録する」と意識させすぎると、普段と違う行動をとる可能性があります。まずは数日間〜1週間程度、「いつも通りに使ってみてね」と伝え、その後の話し合いで「感覚として、どんなことに一番時間を使っている?」などと優しく尋ねてみるのも一つの方法です。その後、必要であれば記録に移行することも可能です。
ステップ4:親子で一緒にデータを見て、話し合う
記録したデータが集まったら、お子様と向き合って一緒に見てみましょう。ここで大切なのは、データを「評価」したり「非難」したりするのではなく、「共有」し、「理解する」姿勢です。
「このアプリをよく使っているんだね、どんなところが楽しいの?」「この時間はゲームをしていることが多いんだね」「学習アプリもこんなに使っているんだ、すごいね」など、まずは事実を共有し、お子様の気持ちや考えを聞き出す質問をしてみましょう。
親御様が感じたこと(例:「寝る直前まで使っている時間が長いと、眠りに影響しないか少し心配だな」)を伝える際は、「〜しなさい」という指示ではなく、「〜だと、私は少し心配に感じている」という「I(アイ)メッセージ」で伝えることで、お子様も受け止めやすくなります。
ステップ5:見えてきたことをもとに、次のステップへ
現状把握の話し合いを通して、何が見えてきたでしょうか?
- 想定していたよりも利用時間が短かった/長かった。
- 特定のアプリに多くの時間を費やしている。
- 夜遅くまで利用している。
- 学習にデジタルデバイスを有効活用できている部分もある。
- お子様自身が利用状況について、漠然とした不安や疑問を感じている。
このように、現状把握によって見えてきた具体的な事実や、お子様自身の言葉は、その後のルール作りにおいて非常に役立ちます。例えば、「寝る前の利用時間が長いことが分かったから、そこをどうするか話し合ってみようか」というように、具体的な課題を共有し、次のステップである「ルール作り」へとスムーズに移行できるのです。
無理なく続けるためのポイント
現状把握のプロセスは、一度行えば終わりではありません。デジタル環境も、お子様の成長も常に変化します。無理なく続けるためには、以下の点も意識してみましょう。
- 完璧を目指さない: 最初からすべての利用状況を詳細に把握しようと気負う必要はありません。まずは利用時間から、慣れてきたら内容へ、というように段階的に進めても良いでしょう。
- 非難しない: データを見て、たとえ親御様が望ましくないと感じる利用状況であったとしても、頭ごなしに非難したり、感情的に𠮟りつけたりすることは避けてください。これはお子様を閉ざし、その後の話し合いを困難にします。
- お子様の意見を尊重する: なぜそのように利用しているのか、お子様の理由や考えに耳を傾け、尊重する姿勢が不可欠です。
- 定期的に振り返る機会を持つ: ルールを決めた後も、定期的に利用状況を振り返る機会を持つことで、ルールが形骸化することを防ぎ、必要に応じて見直しを行うきっかけになります。
まとめ
家庭におけるデジタルルール作りは、お子様の成長を支え、健全なデジタル利用習慣を育む上で大切な取り組みです。しかし、その第一歩として、まずは「今のデジタル利用状況を親子で一緒に振り返り、共有する」ことから始めてみてはいかがでしょうか。
このプロセスは、親御様の漠然とした不安を具体化し、お子様との認識のずれを解消し、そして何より、その後のルール作りを一方的な押し付けではなく、親子が共に考え、納得できる形にするための重要な土台となります。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、「なぜ知りたいのか」を丁寧に伝え、お子様の声に耳を傾けながら、非難ではなく共有する姿勢で取り組むことが成功の鍵となります。
お子様との関係性を大切にしながら、無理なく、わが家に合ったデジタルとの付き合い方を見つけていくための第一歩として、ぜひ、今日のデジタル利用状況を親子で一緒に振り返る時間を持ってみてください。