「わが家が大切にしたいこと」から始めるデジタルルール。思春期の子と話す価値観
なぜ、わが家のデジタルルールはうまくいかないのでしょう?
思春期のお子様のデジタル利用について、漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。「使いすぎではないか」「良くない情報に触れていないか」「勉強がおろそかになっているのでは」など、心配は尽きません。
「よし、ルールを作ろう」と意気込んで、「ゲームは夜9時まで」「スマホは寝室に持ち込まない」といった具体的な時間を決めたり、場所を制限したりするルールを作ってみたものの、なかなか守られず、結局お子様との間に溝ができてしまう、といった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
なぜ、時間を制限したり、利用を禁止したりするだけのルールは、思春期のお子様にとって受け入れがたく、守られにくいのでしょうか。それは、ルールが一方的な「制限」と感じられるからです。お子様にとっては、デジタル利用は友人とのコミュニケーション手段であり、情報収集の場であり、自己表現のツールでもあります。そこに親からの「〜してはいけない」というルールが課せられると、自由や自立を求める気持ちと衝突し、反発を生みやすくなります。
では、どうすればお子様が納得し、自ら守ろうと思えるようなデジタルルールを作ることができるのでしょうか。そのヒントは、「時間や場所の制限」よりも、まず「わが家が大切にしたい価値観」について、親子で話し合うことにあります。
デジタルルール作りで「価値観」が大切な理由
デジタル利用に関するルールを考える際に、「何時まで」「どこで」といった具体的な制限から入るのではなく、「私たちはどんな家族でありたいか」「どんな時間を大切にしたいか」といった価値観から話し合いを始めることには、いくつかの大切な意味があります。
- 内発的な動機付けにつながる: 外部からの強制ではなく、「家族で大切にしたいことのために、自分はどう行動すべきか」という視点を持つことで、お子様自身が納得し、自律的に行動しようという気持ちが生まれやすくなります。
- 家族の一体感を育む: 価値観は家族みんなで共有するものです。「わが家らしさ」を一緒に見つけるプロセスを通じて、家族間の絆や理解が深まります。
- 変化に対応しやすい: デジタル技術やサービスは常に進化します。具体的な利用時間やアプリのルールだけでは、すぐに陳腐化してしまう可能性があります。しかし、「家族の健康を大切にする」「お互いを尊重する」といった普遍的な価値観に基づいたルールであれば、新しい技術が出てきても、その価値観に照らして柔軟に対応していくことができます。
- 「なぜ」が明確になる: なぜそのルールが必要なのか、その理由が「〇〇を大切にしたいから」と明確になるため、お子様もルールの意味を理解しやすくなります。
わが家の「大切にしたい価値観」を親子で探すステップ
では、具体的にどのようにして「わが家が大切にしたい価値観」を見つけ、デジタルルールにつなげていけば良いのでしょうか。
ステップ1:親自身が「わが家らしさ」や「大切にしたいこと」を考える
まずは、保護者様ご自身が、どんな家族でありたいか、何を大切にしたいか、じっくり考えてみましょう。
- どんな時に「この家族で良かった」と感じますか?
- 家族でどんな時間を過ごすのが理想ですか?(例: 食事をゆっくり楽しむ、週末は一緒に出かける、など)
- デジタルによって失いたくないものは何ですか?(例: 家族の会話、睡眠時間、リアルな体験、など)
- デジタルをどのように活用していきたいですか?(例: 趣味を深める、学習に役立てる、社会とつながる、など)
- お子様に将来、どんな大人になってほしいですか? そのために、今のデジタルとの向き合い方で身につけてほしい力は何ですか?
すぐに答えが出なくても構いません。ぼんやりとでも、理想の家族像や大切にしたいことが見えてくると、デジタルとの向き合い方も変わってきます。
ステップ2:お子様と一緒に「大切にしたいこと」について話し合う
保護者様の中で考えがまとまってきたら、お子様にも「わが家で大切にしたいこと」や「デジタルとどう向き合っていきたいか」について、問いかけてみましょう。ここでのポイントは、「〜しなさい」という指示ではなく、「〜についてどう思う?」という問いかけで、お子様の考えを引き出すことです。
- 「A(お子様)は、普段どんな時に楽しかったり、嬉しかったりする?」
- 「家族みんなでご飯を食べる時、どんな雰囲気だと嬉しいかな?」
- 「寝る前にスマホを見ていて、朝起きるのがつらいと感じたこと、ある?」
- 「友達とゲームするのは楽しいと思うけど、他にどんな時間を大切にしたいかな?」
- 「デジタルを使っている時、どんな風に時間を使うのが好き?」
- 「デジタルで新しく学んだことや、やってみたいことはある?」
お子様の答えを否定せず、まずは「そう感じているんだね」と受け止める姿勢が大切です。思春期のお子様は、自分の考えや気持ちを尊重されることで、心を開きやすくなります。
ステップ3:「大切にしたい価値観」と「デジタル」を結びつけて考える
親子で話し合った「大切にしたいこと」と、日々のデジタル利用を結びつけて考えてみましょう。
- 例1:「家族との会話を大切にする」という価値観が見つかった場合
- → 食事中はスマホを遠ざけて、今日の出来事を話し合う時間にする。
- → 週末の夜は、リビングで家族それぞれが好きなことをしながらも、時々顔を上げて話せるような雰囲気を作る。
- 例2:「十分な睡眠をとって、元気に過ごす」という価値観が見つかった場合
- → 寝る時間の〇〇分前にはデジタル機器の使用をやめる。
- → 寝室にはスマホを持ち込まない(充電場所はリビングなどに)。
- 例3:「自分の時間や集中力を大切にする」という価値観が見つかった場合
- → 宿題や勉強中は、通知をオフにするか、デジタル機器を別の部屋に置く。
- → 一定時間デジタルを使ったら、休憩を取り、体を動かす時間を作る。
- 例4:「学びや創造性を育む」という価値観が見つかった場合
- → デジタルで調べてみたいこと、作ってみたいものがあれば、その時間を応援する。
- → オンライン講座や教育アプリなどを活用する時間について話し合う。
このように、「〇〇のために、デジタルをどう使うか/使わないか」という視点で考えると、制限のためではない、前向きなルールが見えてきます。
価値観ベースのルール作りの進め方
価値観に基づいたデジタルルールは、具体的な行動の約束として落とし込みます。その際にも、一方的に親が決めるのではなく、お子様と一緒に「この価値観を大切にするために、どんなルールにすればいいかな?」と話し合いながら進めましょう。
- 話し合いの場を持つ: 静かで落ち着ける場所で、親子で向き合う時間を作ります。お互いの意見をじっくり聞く姿勢が大切です。
- ルールの言葉を選ぶ: 「〜してはいけない」という禁止形よりも、「〜しようね」「〜の時間にしよう」といった肯定的な言葉や、「〜のために」と目的を示す言葉を使うと、受け入れやすくなります。
- テスト期間を設ける: 最初から完璧を目指さず、「まずは1週間試してみようか」「〇〇まで試してみて、また話し合おう」のように、お試し期間を設けるのも有効です。
- 定期的に見直す: 家族の状況やお子様の成長に合わせて、価値観やルールは変化するものです。年に数回、あるいは何か変化があったタイミングで、「今のルールで大丈夫かな?」「〇〇について、もう一度話してみない?」と見直しの機会を設けましょう。
他の家庭の事例から学ぶ
価値観ベースのルール作りは、家庭によって様々な形があります。いくつかの例をご紹介します。
Aさん家族(中学2年生のお子様): 「家族の会話を大切にしたい」という価値観から、「夕食中はスマホをリビングの充電場所に置く」「週末のどちらか一日は、午後は家族で過ごす時間にする(ゲームは午前中や夜に)」といったルールを決めました。最初は反発もあったそうですが、「みんなで今日の出来事を話す時間、楽しいよね」「この時間はゲームを忘れて、一緒に笑おう」と、価値観と結びつけて伝え続けたことで、お子様も納得し、今では自然と充電場所に置くようになったそうです。
Bさん家族(高校1年生のお子様): 「個人の集中できる時間を尊重する」「健康を大切にする」という価値観を共有しています。「テスト前は、夜11時以降はスマホを使わない」「寝る1時間前からは、ブルーライトを浴びないように、画面を見るのをやめるか、フィルターを使う」といったルールがあります。また、「趣味や学習に役立つデジタル利用は応援する」とし、お子様が興味を持ったオンライン講座などは、家族で話し合って検討しています。
まとめ
思春期のお子様とのデジタルルール作りは、単に利用を制限するだけでは難しく、対立を生むことも少なくありません。
「わが家が大切にしたいこと」という家族共通の価値観を起点にすることで、お子様自身がルールの必要性を理解し、自律的なデジタル利用へとつながる可能性が高まります。
価値観を見つけるプロセスは、家族間のコミュニケーションを深め、お互いをより深く理解する貴重な機会となります。完璧なルールを一度に作るのではなく、親子で話し合い、試しながら、わが家に合った無理のない形を見つけていくことが大切です。
ぜひ、今日から「わが家が大切にしたいこと」について、少しお子様と話してみてはいかがでしょうか。その一歩が、より良い家族関係と、デジタルとの心地よい付き合い方につながるはずです。