子どもにルールを求める前に。親がまず見直したい「自分のデジタル習慣」
思春期のお子様のデジタル利用について、時間や内容、そしてそれに伴うリスクなど、漠然とした不安を抱えていらっしゃる方は少なくないでしょう。どうすれば子どもとの関係を損なわずに、納得のいく形でルールを定め、無理なく守ってもらえるのか。こうした課題に日々向き合われていることと存じます。
デジタル利用のルール作りを始める際、お子様と話し合うことや、具体的なルール内容を決めることに焦点が当たりがちです。もちろんこれらは非常に重要ですが、ルール作りをよりスムーズに進め、そして何よりも「持続可能なもの」とするために、ぜひ一度立ち止まって考えていただきたいことがあります。それは、「親御さん自身のデジタル習慣」についてです。
この記事では、なぜお子様にルールを求める前に、親御さん自身のデジタル習慣を見直すことが大切なのか、そして具体的にどのように見直せば良いのかについてご紹介します。親御さんの変化が、お子様やご家庭全体のデジタル利用、ひいては家族関係にどのような良い影響をもたらす可能性があるのかについても触れてまいります。
なぜ親のデジタル習慣がデジタルルール作りの鍵になるのか
お子様とデジタル利用のルールについて話し合う際、親御さんがご自身のデジタル習慣を把握し、必要に応じて見直すことがなぜ重要なのでしょうか。そこには、主に以下の3つの理由があります。
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親は最大の「見本」であること: お子様にとって、最も身近で影響力のある大人は親御さんです。親御さんが日頃どのようにデジタル機器と向き合い、どのような習慣で利用しているのかを、お子様は無意識のうちに観察しています。親御さんが四六時中スマートフォンを手放さず、画面にばかり目を向けているような状況では、「あなたは使いすぎだ」「時間を守りなさい」と伝えても、お子様には響きにくい可能性があります。「お母さんだってスマホばかり見てるじゃないか」という反発につながることも考えられます。 親御さんがご自身のデジタル利用に一定のルールや意識を持っている姿を見せることは、お子様にとって「デジタルとどう付き合えば良いのか」を学ぶ貴重な機会となります。
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親子の信頼関係への影響: お子様が親御さんに話しかけたとき、親御さんが画面から目を離さずに「うんうん」と上の空で聞いているような状況が続くと、お子様は「話を聞いてもらえない」「自分よりもスマホが大切なんだ」と感じ、親御さんへの信頼感を損なう可能性があります。特に思春期のお子様は、親御さんとのコミュニケーションの質に敏感です。親御さんが意図的にデジタルから離れ、お子様と目を合わせて話す時間を設けることは、お子様にとって自分が大切にされているという実感につながり、より建設的な対話を可能にします。
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家庭全体のデジタル環境と雰囲気: 親御さんのデジタル習慣は、ご家庭全体のデジタル機器との向き合い方に影響を与えます。例えば、親御さんが食事中にスマートフォンをチェックする習慣があると、お子様もそれを当たり前と感じ、家族での食事の時間にそれぞれのデバイスを見るようになるかもしれません。親御さんが率先して「食事中はデバイスを使わない」といったルールを実践することで、ご家庭の食卓に会話と笑顔が戻ってくるように、親御さんの意識と行動は家庭全体の雰囲気を大きく左右します。
親自身のデジタル習慣を見直す具体的なステップ
ご自身のデジタル習慣を見直すことは、決して「完璧な親になる」ということではありません。お子様と共に、より健康的で豊かなデジタルライフを築くための一歩です。ここでは、無理なく実践できる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:まずは「知る」ことから始める
ご自身が一日の中でどれくらい、どのような目的でデジタル機器を利用しているのかを客観的に把握することから始めましょう。スマートフォンの利用時間を自動で記録する機能(スクリーンタイムなど)を活用したり、数日間だけ簡単な記録をつけてみたりするのも良い方法です。 「気づけばSNSを見ていた」「調べ物のつもりが動画サイトを延々見てしまった」など、ご自身の無意識の習慣やパターンが見えてくることがあります。
ステップ2:理想の姿をイメージする
ご自身にとって、そしてご家庭にとって、「理想的なデジタルとの付き合い方」はどのようなものでしょうか。 「お子様と向き合って話す時間を大切にしたい」「家族で食卓を囲む時間はデバイスから離れたい」「寝る前はデジタル機器を見ないようにしたい」など、具体的な場面を想像してみてください。これは、お子様に見せたい姿であると同時に、ご自身の心身の健康のためにも大切な視点です。
ステップ3:具体的な見直しポイントを決める
ステップ1で把握した現状と、ステップ2でイメージした理想の姿を踏まえて、どこを見直すか、具体的な行動を決めます。 例えば、「夕食後から寝る時間まではスマートフォンを自室に置く」「通知は必要最低限のもの以外はオフにする」「目的もなくSNSを開かない」など、小さくても具体的な目標を設定するのが効果的です。いきなり全てを変えようとせず、一つか二つ、最も改善したい点に絞るのが無理なく続けるコツです。
ステップ4:お子様にも「私」の目標を共有する
ご自身の見直しの目標を、お子様にも率直に伝えてみましょう。「お母さんもついスマホを見てしまって、あなたとの時間が減っている気がするから、夕食後は使わないように頑張ってみようと思うんだ」というように、理由と共に伝えます。 これは、お子様への一方的な要求ではなく、「家族みんなでより良いデジタルとの付き合い方を探していこうね」というメッセージになります。親が自分の弱さや目標を共有する姿勢を見せることで、お子様も自分のデジタル利用について考えたり、親に話したりしやすくなる可能性があります。
ステップ5:完璧を目指さず、無理なく続ける工夫をする
設定した目標通りに毎日実行するのは難しいかもしれません。うまくいかない日があっても自分を責めすぎないでください。「今日はちょっと見すぎちゃったけれど、明日は気をつけよう」と、柔軟に対応することが大切です。 ご家族で互いに意識し合ったり、「できたね」と声をかけ合ったりすることも、モチベーションの維持につながります。
親の変化が子供に与える良い影響
親御さんがご自身のデジタル習慣を見直す取り組みは、お子様に様々な良い影響をもたらす可能性があります。
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親子のコミュニケーションが深まる: 親御さんがデバイスから離れ、お子様と向き合う時間や心の余裕が増えることで、自然と会話が増えたり、お子様が安心して話しかけられたりするようになります。特に思春期は、親子の対話が難しくなる時期ですが、親御さんのこうした姿勢は、お子様にとって「自分を気にかけてくれている」という安心感につながり、信頼関係を深める基盤となります。
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お子様のデジタル利用を見直すきっかけになる: 親御さんがご自身のデジタル習慣について正直に話し、見直そうと努力する姿は、お子様にとって自分のデジタル利用について考える良いきっかけとなります。「お母さんも頑張っているから、僕(私)も少し考えてみようかな」と、自律的に自分の習慣を見直す意欲につながる可能性があります。
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ルール作りが「家族みんなで考えるもの」という意識に変わる: 親だけがルールを押し付けるのではなく、親自身もより良いデジタルとの付き合い方を探しているという姿勢は、デジタルルール作りが「一方的な制限」ではなく、「家族みんなで心地よく暮らすための工夫」であるという共通認識を育みます。これにより、お子様もルール作りに前向きに参加しやすくなり、納得感を持ってルールを守ることにつながります。
まとめ
お子様のデジタル利用に関する不安からルール作りを検討される際、まずは親御さんご自身のデジタル習慣に目を向けてみることは、非常に有効な第一歩となり得ます。親御さんがご自身のデジタル利用を意識し、より良い習慣を築こうと努力する姿は、お子様にとって何よりの教育であり、信頼関係を深める機会でもあります。
完璧を目指す必要はありません。まずはご自身の現状を知り、小さなことから一歩踏み出してみてください。その一歩が、ご家庭におけるデジタルとのより健康的で豊かな関わり方を築き、お子様とのデジタルルール作りを無理なく、そしてより実りあるものへと導いていくはずです。