思春期の子どもの自己肯定感を守り育てるデジタルルール 親ができるサポートとは
はじめに:思春期とデジタル、自己肯定感のゆらぎ
思春期は、子どもたちが自分自身のアイデンティティを模索し、自己肯定感が大きくゆらぎやすい時期です。この時期、スマートフォンやSNSといったデジタルツールは、子どもたちの生活に深く根差しており、友人とのつながりや情報収集、自己表現の場として欠かせないものとなっています。
一方で、デジタル空間には、外見や持ち物による比較、SNSでの「いいね」の数、心ない誹謗中傷など、自己肯定感を傷つける可能性も潜んでいます。お子さまのデジタル利用を見守る中で、「うちの子は周りと比べてどう思っているのだろうか」「ネットの評価ばかり気にしているのではないか」と、お子さまの自己肯定感への影響を案じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、思春期の子どもの自己肯定感とデジタル利用の関係性を整理し、親としてどのように子どもをサポートできるのか、そして自己肯定感を守り育むためのデジタルルールの考え方についてご紹介します。お子さまとの関係を大切にしながら、健やかな成長を支えるヒントとなれば幸いです。
思春期の子どもの自己肯定感とデジタル利用の関係性
思春期は、身体的、精神的に大きな変化を迎える時期です。友人関係がより重要になり、他者からの評価を意識するようになります。この過程で、自己肯定感は育まれることもあれば、傷つくこともあります。
デジタル空間は、思春期の子どもたちにとって自己肯定感に様々な影響を与える場となり得ます。
ポジティブな影響
- 承認欲求の充足と達成感: SNSで「いいね」をもらったり、コメントで褒められたりすることで、一時的な承認欲求が満たされ、自己肯定感が高まることがあります。また、ゲームでの成功体験や、オンライン学習で新しい知識を得ることも、自信につながります。
- 居場所とつながり: 同じ趣味や関心を持つ仲間とオンラインでつながることで、学校や家庭以外の安心できる居場所を見つけたり、深い人間関係を築いたりすることができます。これは、孤立感を感じやすい思春期において、自己肯定感を支える重要な要素となり得ます。
- 自己表現とスキル獲得: ブログや動画、イラストなどの創作活動を通じて自己表現をしたり、プログラミングやデザインといったデジタルスキルを身につけたりすることも、自分の能力を認め、自信を持つことにつながります。
ネガティブな影響
- 比較と劣等感: SNSで他人の「輝いている部分」ばかり目にすることで、自分と比較してしまい、劣等感や自己否定感を抱くことがあります。加工された写真や演出された日常に触れることで、現実とのギャップに苦しむことも少なくありません。
- 承認欲求への依存: 「いいね」の数やフォロワー数を過剰に気にし、他者からの評価なしには自分の価値を認められなくなることがあります。常に他者の目を意識し、疲弊してしまう可能性があります。
- 誹謗中傷やトラブル: オンラインでの心ない言葉や、人間関係のトラブルに巻き込まれることで、深く傷つき、自己肯定感が著しく低下することがあります。
- 情報過多と疲弊: 常に新しい情報に触れ続けたり、友人との連絡に追われたりすることで、精神的に疲弊し、自分と向き合う時間が減ってしまうことがあります。
このように、デジタル利用は思春期の子どもの自己肯定感にとって、光と影の両方の側面を持っています。親は、この両面を理解した上で、子どもをサポートしていく姿勢が求められます。
自己肯定感を守り育むために親ができること
思春期の子どもの自己肯定感を育むために、親がデジタルとの関わりの中でできることがあります。
1. 一方的な否定や制限ではなく「理解しようとする姿勢」を示す
デジタル利用を頭ごなしに否定したり、「やめなさい」と一方的に制限したりすることは、子どもの反発を招きやすく、自己肯定感をさらに傷つける可能性があります。「どうしてそれを見ているの?」「誰と話しているの?」「どんなところが楽しいの?」など、問いかけを通じて、子どものデジタル利用に対する興味や理由を理解しようとする姿勢が大切です。
2. 子どもの「好き」や「得意」に目を向け、肯定的に関わる
子どもがデジタル空間で見つけた「好き」なこと(特定のゲーム、動画クリエイター、学習コンテンツなど)や、そこで培った「得意」なこと(情報収集能力、コミュニケーション能力、特定のスキルの習得など)に親も関心を持ち、肯定的な言葉をかけることが重要です。「〇〇について詳しいね」「あのゲーム、そんなことができるんだ、すごいね」といった具体的な称賛は、子どもの自己肯定感を育みます。
3. オンラインでのネガティブな経験に寄り添う
もしお子さまがオンラインで傷つく経験をした場合、まずは子どもの気持ちに寄り添うことが最も大切です。決して責めたり、「だから言ったでしょう」といった言い方をしたりせず、「つらかったね」「嫌な思いをしたね」と共感を示してください。そして、その経験から何を学び、どう対処できるかを一緒に考える機会とします。完璧な人間などいないこと、失敗や嫌な経験から学び成長できることを伝えることも大切です。
4. 「ありのままの自分」や「オフラインの価値」を伝える
デジタル空間での「見せかけ」や「比較」に疲れたときに、ありのままの自分を受け入れることの価値や、家族や友人との直接の関わり、自然の中で過ごす時間など、オフラインでの体験がもたらす心の豊かさについて、さりげなく伝えることも重要です。親自身がデジタルとの付き合い方において、オフラインの時間を大切にする姿を示すことも有効です。
自己肯定感を育むためのデジタルルールの考え方
自己肯定感を育む視点からデジタルルールを考える際、単に時間や利用内容を制限するだけでなく、ルール作りそのものを子どもとの対話の機会と捉え、子どもの内面に寄り添うアプローチが有効です。
ルール作りのポイント
- なぜそのルールが必要なのかを共有する: 時間制限であれば、「なぜ時間を決めるのか、決めることでどんな良いことがあると思う?」と問いかけ、「大切な睡眠時間を確保するため」「家族との時間や学習時間を確保するため」など、その目的を具体的に共有します。自己肯定感という視点であれば、「SNSを見て落ち込むことがあるなら、どんなルールがあれば心が守られるだろう?」と、子どもの内面的な安定につながる視点から話し合います。
- 禁止ではなく「どう使うか」に焦点を当てる: 例:「夜9時以降は使わない」といった一方的な制限だけでなく、「夜は心を休めるために、SNSは見ずに好きな音楽を聴く時間にするのはどうだろう?」など、代替案や利用の質に関するルールを提案します。
- 「〇〇しない」よりも「〇〇をする」ルールも検討する: 例:「人の悪口を書かない」はもちろん大切ですが、「誰かの良いところを見つけて伝えるメッセージを送ってみる」「好きなことについてポジティブな情報を発信する」など、デジタルを使って肯定的な行動を促すルールも加えることで、自己肯定感を育む利用を促せます。
- 利用後の「状態」について振り返る時間を持つ: 「デジタルを使った後、どんな気持ちになることが多い?」「疲れたり、嫌な気持ちになったりすることはある?」と問いかけ、自分の心の状態に意識を向ける機会を作ります。そして、もしネガティブな状態であれば、「どうすれば心地よく使えるようになるだろう?」と一緒に考え、必要であればルールの見直しにつなげます。
他の家庭の事例(例として)
- 「SNSは、友人の投稿にポジティブなコメントをつける目的で使う。他者と比較したり、誰かの評価を気にしたりしない」という自分自身の利用目的を明確にする約束をしました。
- 「オンラインで嫌なことがあったら、一人で抱え込まずに家族に話す」という安全弁のルールを設けました。
- 「夜9時以降は、SNSは見ずに、その日にあった良かったことを家族に話す時間にする」という、デジタルから離れて肯定的な関わりを持つ時間を確保するルールを取り入れました。
これらの例は、あくまで一例です。ご家庭とお子さまの状況に合わせて、試行錯誤しながら、お子さま自身が納得できる形でルールを定めていくことが重要です。
まとめ:ルール作りは成長をサポートする対話の機会
思春期の子どもの自己肯定感を育むデジタルルール作りは、決して簡単なことではありません。しかし、このルール作りのプロセスは、お子さまとじっくり向き合い、お互いを理解し、信頼関係を深めるための貴重な機会となります。
一方的な制限ではなく、お子さまの気持ちやデジタルを使う理由に耳を傾け、「どうすれば心が健やかに、前向きにデジタルを活用できるか」という視点から一緒に考えていくことが大切です。
デジタルは良くも悪くも、子どもたちの自己肯定感に影響を与えます。親として、その影響を理解し、子どもがデジタルを味方につけ、自分自身の価値を認められるようにサポートしていくことが、これからの時代に求められる子育ての一つと言えるでしょう。焦らず、お子さまの成長に合わせて、対話を重ねながら、ご家庭に合った無理のないルール作りを進めていきましょう。