「もういい」と閉ざす思春期の子とデジタルルールをどう決める?対立を避ける対話術
思春期を迎えたお子様とのデジタル利用に関するルール作りは、多くのご家庭で直面する課題です。特に、いざ話し合いを始めようとしても、「もういい」「勝手に決めてよ」「別に困ってないし」などと、お子様が話し合いそのものから距離を置いたり、口を閉ざしてしまったりすることに悩んでいらっしゃる方も少なくないでしょう。
親としては、お子様の健やかな成長や安全を守りたい一心ですが、強引に進めれば反発を招き、関係性が悪化するのではないかという不安もつきまといます。この記事では、「わが家のデジタルルール作り」というサイトの理念に基づき、思春期のお子様がデジタルルールに関する話し合いに乗ってこない、または閉ざしてしまう状況で、どのように対立を避けながら、関係を損なわずに一緒にルールを決めていくか、具体的なアプローチ方法をご紹介します。
なぜ思春期の子はデジタルルールの話し合いを嫌がるのか
まず、お子様が話し合いを避ける背景にある気持ちを理解することから始めましょう。思春期は、自分自身の価値観を確立し、親からの精神的な自立を目指す大切な時期です。その過程で、親からの干渉やコントロールだと感じることに対して、反発したり距離を置きたがったりする傾向があります。
デジタル利用についても同様で、「自分のことは自分で決めたい」「プライバシーに立ち入られたくない」「親に管理されていると感じたくない」といった気持ちが強く働くことがあります。また、親が持つデジタルへの漠然とした不安や否定的な見方に対して、反発心や「どうせ分かってもらえない」という諦めを感じている場合もあります。
これらの背景を理解することで、頭ごなしに「なぜ話し合わないの!」と責めるのではなく、お子様の気持ちに寄り添ったアプローチが可能になります。
「もういい」と言われた時の親のNG行動とOK行動
お子様が話し合いを拒否したり、「もういい」と話を打ち切ろうとしたりしたとき、親がどのような対応をするかで、その後の関係性や話し合いの可能性は大きく変わります。
NG行動:
- 感情的になる、問い詰める: 「どうして話し合わないの!」「ちゃんと説明しなさい!」と感情的に責め立てると、お子様はさらに心を閉ざします。
- 一方的に決定事項を突きつける: お子様の意見を聞かずに親だけでルールを決め、「守りなさい」と押し付けると、強い反発や不満を招きます。
- 過去の失敗を蒸し返す: 「前もちゃんと約束守らなかったじゃない」「いつもこうだよね」など、過去の出来事を持ち出して責めるのは逆効果です。
- 他の家庭と比較する: 「〇〇ちゃんの家ではちゃんとルール決めてるのに」など、比較する言葉は子供の反感を買います。
OK行動:
- 一旦受け止める: 「そっか、今は話したくない気持ちなんだね」と、まずはお子様の「話したくない」という気持ちそのものを受け止めます。
- 時間をおく、仕切り直す: 無理強いせず、「分かった、また改めて話せる時に教えてね」と伝え、一旦その場を離れます。冷静になった後、改めて声をかけたり、別の機会に話題にしたりします。
- 非難せず、共感の姿勢を示す: 「難しく感じるかもしれないけど、一緒に考えてみない?」など、お子様が抱えるかもしれない難しさや面倒くささに理解を示します。
- 「~してくれない」ではなく「~したい」を伝える: 「あなたが全然話を聞いてくれない」ではなく、「お母さんはあなたのことを大切に思っているから、一緒に考えたいんだ」のように、親の願いや目的を穏やかに伝えます。
話し合いの「場」と「タイミング」を工夫する
思春期の子どもにとって、改めてかしこまって話し合いの場を設けることは、それだけでプレッシャーになることがあります。リラックスできる状況や、会話のきっかけを作りやすいタイミングを選ぶことが重要です。
- 普段の何気ない会話の中で切り出す: 食事中や車での移動中、一緒にテレビを見ている時など、リラックスした雰囲気の中で自然に話題にしてみる。「最近、〇〇(ゲームやSNS)流行ってるみたいだけど、どうなの?」といった軽い質問から入るのも良いでしょう。
- 短時間で切り上げる: 最初から全てを決めようとせず、「ちょっとだけ聞いてもらえる?」と声をかけ、まずは短い時間で終わるように意識します。
- 場所を選ぶ: リビングなど、普段から家族が集まる場所や、少し気分転換できるようなカフェなどで、リラックスして話せる雰囲気を作るのも有効です。(ただし、人目がある場所を嫌がる子もいるため、お子様の性格を考慮してください)
- お子様が心身ともに落ち着いている時を選ぶ: 疲れている時、友達と遊んで機嫌が良い時、何か別のことに集中している時などは避け、比較的落ち着いて話を聞けるタイミングを見計らいます。
話し合いに乗ってこない子への具体的な声かけ例
お子様が話し合いを避けたり、口数が少なかったりする場合でも、対話を諦めないための声かけの工夫があります。一方的に質問攻めにしたり、答えを急かしたりしないことが大切です。
- オープンな質問を投げかける: 「どう思う?」ではなく、「〇〇について、あなたが感じていることや、良いところ・難しいところがあれば聞かせてもらえる?」のように、感想や考えを聞く問いかけにします。
- 選択肢を与える: 「〇時までにするか、それとも〇時間までにするか、どっちの方が無理なくできそう?」のように、いくつか選択肢を提示し、お子様に選ぶ・考える余地を与えます。
- 親自身の経験を話す: 「お母さんも、若い頃に時間をうまく使えなくて困ったことがあってね…」のように、親自身の経験談を話すことで、共感や親近感を生み出すことがあります。
- 心配している「気持ち」を伝える: ルールそのものについて話す前に、「少し心配なことがあって、あなたの話を聞かせてもらえたら安心するんだけど…」と、親の正直な気持ちを伝えることで、お子様も耳を傾けやすくなることがあります。
- 一緒に考える姿勢を示す: 「ルールを決めるのが目的じゃなくて、あなたが楽しく、安心してデジタルを使えるように、一緒に考えていきたいんだ」と、目的を明確に伝え、一方的に「守らせる」ものではないことを示唆します。
「一緒に決める」プロセスに巻き込む工夫
思春期の子どもは、「自分で決めたこと」には責任を持って取り組みやすい傾向があります。ルール作りそのものを「やらされること」ではなく、「自分で関わること」に変える工夫が有効です。
- お子様に「課題」として投げかける: 「最近、寝る前にスマホを見てしまうと、朝起きるのが辛い時があるみたいだけど、どうしたら改善できるかな?〇〇ならどう考える?」のように、お子様自身に解決策を考えさせるように促します。
- ルール作成の担当に任命する: 「じゃあ、休憩時間についてのルール案、〇〇が考えてくれる?どんなルールならみんなが守りやすいか、調べてみるのも良いかもね」のように、ルール作りの一部をお子様に任せてみます。
- 「試験的にやってみる」という形にする: いきなり「決定」とするのではなく、「とりあえず1週間、このルールで試してみない?やってみて難しかったらまた考え直そう」と提案することで、お子様の抵抗感を減らします。
- 意見を真剣に聞く、否定しない: お子様が話に乗ってきたら、その意見がどんなに突飛なものでも、まずは遮らずに最後まで聞きます。「なるほどね、そう考えるんだね」と受け止めた上で、一緒に実現可能性などを考えていきます。
全てを一度に決めようとしない、スモールステップのアプローチ
お子様が話し合いを避ける場合、完璧なルールを一度に全て決めようとするのは非現実的です。まずは小さな一歩から始め、成功体験を積み重ねていくことが大切です。
- 一番優先度の高いルールから: まずは「就寝1時間前は利用しない」など、最も重要だと考える項目一つだけに絞って話し合いを試みます。
- 具体的な一つの行動目標を設定: 「ダラダラ見てしまうのをやめる」といった曖昧な目標ではなく、「寝る前にスマホを見ないように、寝室に持ち込まないようにする」といった具体的な行動目標に絞ります。
- 短い期間で試す: 1週間や2週間など、短い期間で「お試しルール」を設定し、それができたら一緒に振り返り、次のステップを考えるようにします。
ルール作り以前の「関係性」が対話を可能にする
どんなにテクニックを駆使しても、普段からの親子関係がギクシャクしていると、いざという時の話し合いは難しくなります。日頃からお子様との信頼関係を築く努力を続けることが、デジタルルールの話し合いをスムーズに進める上で最も重要かもしれません。
- 普段からお子様の話に耳を傾ける: デジタルに関することだけでなく、学校のこと、友達のこと、好きなことなど、日常の会話を大切にし、お子様が「この親なら話を聞いてくれる」と思える関係性を築きます。
- お子様の興味関心に寄り添う: お子様が熱中しているゲームやSNSについて、否定せず、興味を持って質問してみる。「どんなところが面白いの?」「最近流行ってるゲームは?」など、一緒に楽しむ姿勢を見せることも、心を開くきっかけになります。
- 親自身もデジタルの使い方を見直す: 親自身がスマートフォンを手放せなかったり、お子様に内緒でこっそりチェックしたりしている様子は、お子様の不信感につながります。親が家族のデジタルルールを真剣に考え、実践する姿を見せることも大切です。
他の家庭の事例から学ぶ
話し合いを拒否されたり、ルール作りが停滞したりするのは、決して特別なことではありません。多くのご家庭が同じような壁にぶつかっています。
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事例1:声かけの工夫で乗り越えたAさんの例 「ゲーム時間のルールを決めよう」と声をかけたら「もういい!」と部屋に閉じこもってしまった息子さんに対し、Aさんはすぐに追いかけず、数日後、「最近お母さんも寝る前にスマホ見すぎてるなって思ってて。〇〇はそういうことない?もし良かったら、お母さんも一緒にスマホの時間を少し減らしてみない?」と、息子さんの課題ではなく、親自身の課題として持ちかけました。息子さんは「別にいいけど」とぶっきらぼうながらも、少しずつ話し合いに応じてくれるようになったそうです。
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事例2:スモールステップで成功したBさんの例 ゲーム時間のルールを細かく決めようとして息子さんに拒否されたBさんは、まず「リビングでは寝る1時間前まで」という一つの簡単なルールだけに絞って提案しました。息子さんは「それくらいならいいよ」と同意し、そのルールが定着した頃に、改めて「今度はゲームを始める時間について考えてみない?」と、別のルールについて話し合いを進めることができたそうです。
これらの事例のように、すぐに完璧を目指すのではなく、粘り強く、そしてお子様の気持ちに寄り添ったアプローチを続けることが、対話への扉を開く鍵となります。
まとめ:対話の努力を続けることが最も大切
思春期のお子様とのデジタルルール作りにおいて、話し合いを拒否されたり、口を閉ざされたりすることは、親として非常に悩ましい状況です。しかし、そこで諦めたり、一方的に決めつけたりするのではなく、お子様の背景にある気持ちを理解し、根気強く対話を試み続けることが何よりも大切です。
完璧なルールを一度に作る必要はありません。話し合いの「場」と「タイミング」を工夫し、非難せず、お子様の意見に耳を傾け、「一緒に考える」という姿勢を示すこと。そして、親自身の正直な気持ちを伝えること。これらの小さな積み重ねが、お子様との信頼関係を育み、やがて対話の可能性を広げていくでしょう。
完璧な答えがないからこそ、ご家庭ごとに最適な方法を、お子様と一緒に探し続けていく。そのプロセスそのものが、「わが家のデジタルルール」を、そしてより良い親子関係を築いていく基盤となるはずです。無理なく、焦らず、対話を続けてみてください。応援しています。